葬儀も終わり、遺族らは遺品整理に着手します。当時、死後6か月以内に相続税を納税する必要がありましたが、残された膨大な資料や作品のため作業は遅々として進みません。
とにかく遺品として手元に置いておくもの以外の作品は、すべて美術館に寄贈するなどして相続税の回避を図り、一息つきました。
しかし税務署は遺族が相続税の対象とは考えていなかった、膨大なスケッチや下絵、デッサンなど作品と呼べないものにも価値があると指摘してきました。それらの点数は一般的に大作となれば10点〜50点程度のデッサンや下絵を描いて、構図や色の配置などを画家は思慮します。税務署の言い分は、それら全てに価値があり、しかもその算定方法が杜撰で、『美術年鑑』に1号(ハガキ1枚サイズ)の評価額が10万円だから、これは100万円、これは200万円と無茶苦茶な評価をして、相続税を算出しました。
もし展覧会に出品する様な山の絵で販売価格200万円だとしたら、下絵、デッサンは2-3万円の価値しかないのはプロの美術商なら当たり前の話なのですが・・
遺族は知らなかった。
税理士も。
そして税務署員も。
その言葉を聞き、途方も無い相続税を恐れた遺族は、泣く泣くそれらの文化財的な価値をもつ、下絵やデッサンを燃やすことを選びます・・・。
この時、もし市場精通者に時価評価のアドバイスを求めていたら、この様な結末にならなかったと思います。
美術品、骨董品の課税評価が曖昧だった当時の悲劇です。
当時(昭和)は書画骨董品は情報量も少なく、評価額を調べる手立ても解らない方が多く『家財一式30万円』で通りましたが、現在はそうはいきません。