当館には年に数回、全国の国税局や税務署から美術や骨董品の鑑定依頼が来る。
税金滞納者から差し押さえた骨董や美術品がいくらになるか教えてほしいと。
だが、まともな美術品や骨董品が差し押さえられる事は滅多にない。
偽物だったり地方のお土産品が、多い。
なぜなら滞納者は高額になる美術品などは、すでに換金している場合がほとんどだからだ。
また、よくあるのが偽物の美術品を差し出して、『これは売れば数千万円になる』と国税局や税務署の徴収職員を欺こうとする輩だ。徴収職員は疑いつつも滞納金を回収しなくてはいけないので我々に鑑定依頼をする。
時には差し押さえ現場に同行する時もある。
ある日、国税局の徴収職員と共に20人程でビジネスホテルへ差し押さえに行った。そこに飾ってあった絵画や壺、置物等、見事なまでに偽物のオンパレードだった。
しかし、ホテル経営者はこの絵画は300万円、この壺は150万円で買った。だからその値段相当の評価、物納として認めてほしいと。
そこで我々の出番。
鑑定して実際の評価額を徴収職員に告げる。『飾ってある物、全部偽物で5万円位にしかなりません』と。その様な場合、徴収職員はどうするのか?
答えは、「差し押さえない。」
何故なら後で国税局や税務署に数百万の美術品を5万円しか評価されなかったと行政訴訟を起こされる可能性があるからだ。
その日は結局、20名程で差し押さえに行ってテレビや空気清浄機など数万円程しか回収できなかった。国税局や税務署の徴収職員の人件費や手間を考えるとかえってマイナスなのでは?といった現場もあるのが実態だ。
さらに近年、新たな手法で問題が起きている。
偽物の美術品を輸出し、本物の値段で売った事にして消費税が還付される制度を悪用した例だ。
1万円で偽物の掛け軸や仏像を仕入れ、1000万で売ったという送金記録を残し、還付金100万円を騙し取る、という手法だ。
この手法、やっかいなのは、たとえ美術品が偽物だとしても、売り手、買い手双方が『本物だと思った』と言われたら売買成立を国税局が否認する事は難しい。
消費税が2014年に5%から8%に、さらに2019年には10%なったことで制度の悪用が増加している。
この様な形で日本の税金が海外へ流出する事態は一刻も早く阻止しなければならない。
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