同居していた父親が亡くなり、四十九日を終えた花子(63歳)は、相続の手続きや遺産のもめごとから、しばらく解放されて一段落していた。
しかし、お昼寝もままならない。日中は相変わらず電話が鳴り響く。
「0120」は出ないようにしていたが、「080」からだと、一応出てみる。
用件がわかれば撃退法は心得ている。オレオレ詐偽も大丈夫だ。
だけど一度やってしまった。
出た電話は「不用品買い取ります」「例えば、パソコンや着物買います」だった。
「いえ結構です」と答えていたが、「タンスも買取ますよ」と言われ、心が揺らいだ。
父親が使っていたタンスの処分を考えていたからだ。
業者を呼ぼうにも、どこに連絡すれば安全なのか分からない。
子供たちは独立して遠くにいる。夫と2人だけでタンスを運び出し、レンタカーに積むことも難儀だ。
そんな時、「買い取ります」とか「見積もり無料」と聞いて、つい家に呼び込んでしまった。
若い男2人がやって来た。
「これは無理、引き取れないっすよ」で終わればよかったのだが、「今日、ほかの仕事、断って来たんですけど、何か売ってもらわないと困るんですよね」と言い始めた。
こちらも急に罪悪感も湧いて、この面倒な時間を早く終わらせたいという心理に陥った。
宝石がないかと催促され、差し出してしまった。
4年前、夫が定年の退職金で買ってくれた70万円のネックレスも含まれていた。
男たちが帰った後、気づいたら5000円だけ置いてあった。
夕方、再就職先から帰った夫には何も言えなかった。
国民生活センターや消費生活センターにはこうした被害に関する相談が寄せられています。
まずは簡単に家に呼んでしまわないように気をつけてください。
買取業者さんの選別は注意深く慎重にしましょう。
<日刊ゲンダイ連載「鑑定士のナイショ話」より転載>